インタビュー

対人援助職は自分自身が成長できる仕事

職員

鈴木 正貴

本部 共育事業責任者
介護福祉士・介護支援専門員・社会福祉士・精神保健福祉士

職員・鈴木正貴

Profile

 介護福祉士養成校を卒業後、福祉の道をすすむ。いきいき福祉会へは、2009年に、民主的な運営方針、地域に開かれた経営、多様な事業を展開しているおもしろさに惹かれ入社。当初は、ラポール三ツ沢のオープニングスタッフ。その後、ユニットリーダー、ヘルパー2級養成講座担当、ケアマネジャー、包括支援センター相談員、特養ホーム生活相談員を行いながら人材育成業務に携わる。現在は、特養ホームの現場育成をリードしながら法人本部の人事グループの人材採用・人材育成の担当責任者。

close

インタビュアー

石井 正宏

株式会社シェアするココロ代表取締役
特定非営利活動法人パノラマ理事長

インタビュアー・石井 正宏

Profile

 ひきこもり等の若者を支援するNPO法人で活動後、ひきこもりにさせない予防支援に取り組むため、平成21年に(株)シェアするココロ設立。
 平成27年にNPO法人パノラマを設立し、課題集中高校での校内居場所カフェ等の支援を行う。
 平成25年度内閣府「困難を有する子ども・若者及びその他家族に対する支援の在り方に関する調査研究」企画分析委員。
 平成26から横浜市就職サポートセンターのスーパーバイザーを務める。

close

カッコいい福祉職の先輩たちとの出会い

鈴木さんが福祉の道に進もうと意識しはじめたのはいつ頃からですか?
兄が特別養護老人ホーム(以下、特養と略す)で働いていた影響もあり、中学生の頃にはすでに意識してましたね。中学の夏休みの宿題にボランティアというのがあって、特養を選びました。「ありがとう」って言われたのが嬉しかった記憶があります。ただ、他にもやりたいことができたり、専門学校に入るまでは揺れてましたね。
どんな部分で、気持ちが揺れていたんでしょう?
あの頃、自分がイメージしていた福祉というのは、暗いとか、ダサい、キツイなど、ちょっとオタクっぽいネガティブなイメージがどうしてもあったんですよ。ただ、同時にシルバー産業とか、これからは福祉だとも叫ばれていた時代だったので、今の特養とは違う形の産業というのが、これからあるのではないかという期待感も持っていました。
鈴木さんにお会いして感じた、介護職のイメージから少し離れたビジネスマン的センスの理由がわかったような気がしました。そんな鈴木さんのキャラクター形成に影響を及ぼした人や出来事は何かあるのでしょうか?
専門学校や養成校等で出会った講師の方々が、元デイトレーダーで有名な方だったり、授業でもビジネス的な切り口で福祉を観る授業があったり、ちょっと変わっていて面白かったんですよね。その頃から経営とかを意識するようになり、直接的な対人援助だけではない、ビジネス的な面白みを感じるようになっていったんですよね。
鈴木様インタビュー1

徐々に変わっていく福祉へのイメージ

初期的に持っていたネガティブなイメージは、どのように払拭されていったんでしょうか?
今のラポールグループで仕事をするきっかけにもなっているんですが、ケアマネージャーの資格を取ったときの研修で、若いのにしっかりと人前で話が出来て、服装もお洒落な方がラポールグループの方だったんです。あれ、想像していたのとなんか違うって思って(笑)。専門的なケアが出来て、講座の講師も務めることも出来る人たちを見て、凄いカッコいいなと単純に思ったんですよね。
なるほど、動機の部分から他の介護職の方とは若干違うような気がしますが、鈴木さんのような職員は珍しいのではないでしょうか?
そうかもしれませんね(笑)。福祉職が社会人として劣ってみられている風潮がとても悔しかったんです。だからこの業界に入りたての頃から、いつもビジネス雑誌を読み、一般のビジネスマンと遜色ないようにしたいと思ってましたね。
鈴木様インタビュー2

求められていることよりも、するべきことを優先して失敗

新人時代の失敗について聞かせていただけませんか?
いろいろありますよ(笑)。認知症ケアが確立されていない頃の重度の認知症の方への失敗がやはり多かったですね。まだ対応する手法が確立されてない時代だったということもありますが。
例えば、不安定で落ち着かない方のトイレに失敗し衣類が汚れてしまっていることに気がつく。自分はトイレケアをしなければならないという思いが、その方の気持ちを置き去りにして先走っちゃうわけです。結果、本人の意向に反してしまった、と。機嫌を損ねて怒ってしまい、生まれて初めて顔にツバをかけられたんです。ショックでしたね〜。そのことが消化できなくて落ち込みましたね(笑)。
その方がして欲しかったことを感じてあげられていなかった、ということですか?
そうですね。先輩たちが上手くやってるのを見て、なんで先輩たちは出来て自分は出来ないんだろうと思って考えたんです。よく考えると、作業優先でその方のして欲しい、人として当たり前のことを受容してなかったんだなってことに気づきました。
認知症であっても、一人の社会人であるというのは当たり前の前提ですよね。自分も嫌なこととか、考えてることと反対のことを強要されたら嫌に決まってるじゃないですか。自分は衣類が便で汚れているのをなんとかしなきゃと、ただ単に思ってる。でも、ご本人はご飯の後だからゆっくりしたいと思ってる。それなのに、わけもわからずトイレに連れて行かれ、男性にズボンを下ろされる。それは混乱して当然ですよね?それで自分自身を守るために手を出したり、暴れたりしてしまっていたんだ、ということに気がついたんです。
鈴木様インタビュー3

五感をフル稼働し、周辺情報を今に活かすケア

そのような経験をどう活かしていったんですか?
それまでは、その瞬間でケアを考えていたと思うんですよ。それが段々、本人の表情や息づかい、最近の睡眠や食事の状況はどうだったか、とか、家族が最近面会に来ていないな、などという周辺情報に注意するようにしました。その情報とそのときの空気感や状況から、今何を望んでいるのか考えるように変わりましたね。
そういう判断を下すベースには緻密な情報共有や、スタッフ間のコミュニケーションが大切そうですね?
そうですね。自分一人で365日24時間ケアすることはできないわけではないですが、見えない時間の方が多いわけですよね。パソコンでカルテのようなものに日々記録をしますが、すべてが文字にできるわけじゃないので、その辺が難しいですよね。伝言ゲームみたいにどんどん変わっていっちゃうんで、スタッフ同士のコミュニケーションは大切にしています。
鈴木様インタビュー4

スタッフの発するバイブレーションが居住環境を左右させる

鈴木さんが働く上で大切にしているポリシーを教えて下さい。
自分は環境だ、ということをとても意識してますね。自分の歩くスピードや足音の大きさ、自分の口調や早さなど、自分がすることが利用者さんにどういう影響を与えているのかを常に意識しています。例えば、図書館では静かに過ごすし、ライブに行けば騒ぎますよね? 同様に、ラポール三ツ沢ではどのように振る舞うべきか、ということを考えています。自分の個性を出すより、ここの環境特性に自分を合わせていく感じですね。
環境を乱す存在にならないような配慮ということでしょうか?
はい。夜勤ってわかりやすいんですよ。声が大きくてチャキチャキしたスタッフが夜勤をすると、朝、フロアがざわついていて落ち着かないんです。でも、落ち着いた環境を作る人が夜勤をすると、朝、しーんとみんな寝ているんですよね。だから、心地良い環境を提供しつつ、自分がその環境の一部になることを大切にしていますね。
鈴木様インタビュー5

気持ちを察し、待てるようになった

鈴木さんご自身の変化や成長は感じていますか?
一番は、穏やかになったこと、ですかね(笑)。何事にもすぐに反応しないで、待てるようになりました。どうしてそういうことを言ったんだろう、とか、その行動をした理由はなんだろう?など、一拍置いて考えられるようになりましたね。
それはお父さんである鈴木さんにとってもいいことのような気がします(笑)
めっちゃくちゃいいですね!(笑)。福祉や対人援助職に就くということは、いろいろなことに良い影響があるんじゃないでしょうか。例えば付き合っていた当時の妻にも、昔はすぐに怒ってたんですが、この仕事を長くするようになってからは、待てるようになり、察してあげれるようになりました。
自分自身が人と向き合う中で成長できるというのは、対人援助職の一番の醍醐味ですね。
勤続14年になりますが、入りたての頃とは本当に随分変わりました。意外に思うかもしれませんが、自分はけっこう気の短い性格だったんですよ(苦笑)。それが今はもう全然待てますから(笑)。なんとなく生きるのも楽になったように思います。
鈴木様インタビュー6

専門職として逃げず、人として向かい合う

何が鈴木さんを変えたんでしょう?
やはり学びの経験が大きいですね。最初は介護福祉士を取得して、通信の大学で社会福祉士の資格も取り、その過程で心理なんかも学んで。学びの中で、いろいろなことに気付き、実践の中で確認の作業がある。だから、今も自分が成長できている実感はあります。まだまだケアの手法や発展途上の部分も多いし、いろいろな手法が時代時代で変わっていくんで、これからもずっと学び続けていきたいですね。そういうのが面白くて、今は本当に充実しています。
最後にラポールグループの個性について、鈴木さんがどう感じているのかを教えて下さい。
「人を支えきる」っていうことに、本当にこだわっている法人だと思いますね。どこもそういうことを謳っていますが、なかなか実際は難しいところがあります。うちの専務理事(現・理事長)の小川は、現場で育ってきた専門家ではないんですよ。だから本当に人として当たり前のことを求めてくるんですね。
なんと言いますか…、福祉の専門職としての言い訳が出来ないんですよ(汗)。できない言い訳をすると、「え、どうして?」と、真っ直ぐに一人の人として言ってくる。そんな人として当たり前なことが日々求められる中で、私たちは支えきれる幅が広がっているんだと思います。そういうのが、自分には良い刺激なんですよね。
鈴木様インタビュー7

ページ上部へ